ホーム導入事例

導入事例

システム導入紹介記事一覧へ 新聞記事の内容はこちら
A
デジタル・オンデマンド出版センター(東京都千代田区)
(印刷新報 2016/1/7 掲載) a
出版業界の抱える課題解決へ
品切れ重版未定本の受け皿に
協業でのPODビジネス始動
 国内には絶版ではないが重版の予定が無く、読みたくても手に入らない「品切れ重版未定本」が約30万点以上もあるとされている。出版不況が続く一方で、読者のニーズを拾い切れていないのが現状だ。こうした問題点を解決すべく、出版業界ではさまざまな取組みが進んでいる。そのひとつが「デジタル・オンデマンド(DOD)出版センター」だ。システム・制作・物流の各分野のプロフェッショナル企業が協業で行う出版業界初のサプライチェーンとして昨年の5月にサービスインした。重版未定本の解消や協業によるコストの削減で、出版社、印刷会社、そして読者の三者がメリットを共有できるビジネスモデルを目指している。そこで同センターについて発足からの参画企業である光和コンピューター(寺川光男社長、東京都千代田区)の浴野英生氏と小林修平氏、SCREENグラフィックアンドプレシジョンソリューションズ(青木克彦社長、京都市上京区)の平林利文氏に話を聞いた。
           
■出版業界初のサプライチェーン
 DOD出版センターは、出版システムの開発・販売を行っている光和コンピューターに事務局を置き、SCREENグループのほか、印刷会社や出版流通倉庫会社など計6社が運営に参画している。
 始まりは2013年12月、光和コンピューターではPODのシステムを整備することで、出版業界に貢献できるのではないかと考え、手段を模索していた。そんな時、取引先の出版社から紹介されたのが現在も運営の中心メンバーであるSCREENだった。
 デジタル印刷機を製造するSCREENではさまざまなブックソリューション事例を展示会などで発信していたが、その事例は海外のものがほとんど。特にロール式のデジタル印刷機を活用して本を制作するビジネスモデルは、海外では一般的だが日本では普及していなかった。かといって海外のビジネスモデルをそのまま日本に持ってきても難しいことは明らかで、これまでとは違ったアプローチの必要性を感じていた。
 そこに光和コンピューターから話があった。SCREENとしても日本でのブックソリューションの事例を、300社以上の出版社と付き合いのある光和コンピューターと構築できないかと考えた。そこで出版の各分野のエキスパートが連携したビジネスモデルを構築すべく、DOD出版センターというサプライチェーンが発足した。
 同センターでは制作・管理システムを光和コンピューターが担当し、印刷・製本は協力印刷会社が、その際のレベリングや技術サポートをSCREENグループ、物流は協業の倉庫会社が行う形でスタートした。
 最初は任意団体としてスタートし、光和コンピューターの顧客の出版社などとテストマーケティングを重ね、昨年5月にサービスインした。6月に出版社向けに説明会を行い、7月には東京ビッグサイトで開催された第22回東京国際ブックフェアに出展するなど普及活動に努めており、現在は約20社の顧客を抱える。
 特徴としては、ロール式のインクジェット印刷機を活用して出版社からの受注をまとめ、複数の印刷物を一括印刷する「JOBギャツギング(付け合せ印刷)」により、高品質でありながら低コスト化を実現している。
 また、自ら設備投資をせずに協業という形をとることで、常に最新の印刷機を使用することが可能だ。
 これまでは1社でPOD事業を始めるために印刷・製本機械を導入すると、その機械に沿ったものしか作れなかった。また、機械の進歩は日進月歩であり、1年~2年で機械の性能も大きく変わる。
 同センターでは各協力会社の設備を使用できるため、各社の設備に合わせてサービスのバリエーションも増えている。
 当初はカバーのない一般的なぺーパーバックのみだったが、現在はカバー袖部に掲載されている作者コメントなどの印刷にも対応する表紙両面印刷、300部以上ならカバー・スリップ付でペーパーバックと同価格の「ハイブリッド出版」などのサービスがある。さらにハイブリッド出版では、増版時に10部からという小部数での増版も可能で、PODでもカバー・スリップを求める出版社から好評を得ている。
 また、カラー料金もページ単位での2色/4色に対応している。新たに企画中の「プレミアムスキャン(仮称)」では、本を断裁せずに図版もきれいにスキャンできるため、原本が数冊しかないような貴重な本に適しており、高い評価を得ている。これも各社の機器を使用できることで可能になったサービスだ。
 そして、現在最も注力しているのがWebプラットフォームの受発注システムだ。光和コンピューターが開発しており、今年の1月からテストを開始、3月の正式リリースに向け準備を進めている。
 これまで出版を夕ーゲットとしたWebプラットフォームでの受発注システムは、日本にはなかった。完成すれば見積もり作成から受発注までを一本で流せる。出版社側で条件を入力するだけで各種見積りが自動作成され確認できる。さらにサーバーを活用しての校正作業も可能となり利便性が大きく向上する。印刷会社にとっても、同システムから校正済みデータを受け取り、製作工程へそのまま流せるので、メリットは大きい。
 また、同システムによって全国展開も開けてくる。小ロットの仕事ではその地域向けの書籍もある。DOD出版センターでは最終的に全国津々浦々、その土地での印刷を目指している。そうすれば運送コストも抑えられる。現在は東京中心だが、協力会社は広く全国から募集していく。
 もちろん、印刷会社によって機械も違えば印刷のやり方も違う。そこのレベリングは長年のノウハウを持つSCREENグループが行い、全国どこでも高品位な書籍の提供を目指している。
           
■出版社、印刷会社が利益共有 ◆パートナーの関係に
 取り組みから2年、顧客の出版社も増え、それに伴い要望も増えている。機械の進歩に伴い、少しずつ応えているが同センター、は出版社の要望をすべて聞き入れ、「何でも屋」になってしまうことも懸念している。その背景には業者としての印刷会社の実情がある。
 出版をメインにこなす印刷会社は出版社との結びつきが強く、要望にはできるだけ応えないといけない。たとえば、小ロットの仕事は利益が薄いが、出版社との付き合い上受けざるを得ない。
 そこで、そういった採算の合いづらい仕事には同センターを利用してほしいと考えている。目指しているビジネスモデルは、競合サービスより1円でも安くすることではない。コストは抑えながらも今までにない付加価値を提供することで、印刷会社、出版社、そして読者の三者が利益を享受できる仕組みだ。
 そのため、業者ではなくパートナーとしての関係を出版社と目指している。実際、同センターを利用している出版社ではそうした意識が根付き始めている。同センターを利用するメリットが大きいからだ。
 同サービスが他のPODサービスと違う点について、浴野氏は「あくまで出版社がコンテンツホルダ」でありステークホルダーだ」と説明する。たとえば本のスキャンデータなどは出版社が自由に使えるので、制作した本をどの書店でも自由に販売することができる。これもマルチベンダーを標榜する同センターだからこその強みだ。
 また、現在問題となっている重版未定本の受け皿としての利用も増えているという。
 出版社は出版権を保持している以上は継続出版の義務がある。しかし無理に重版して返本などで在庫が残れば、初版で出した利益がなくなつてしまう。そのため重版に踏み切れない出版社が多い。そういった場合に10冊から重版に対応する同センターの強みが活きる。
 さらに一般に流通している書籍の重版がPODで製作されるようになることも普及には重要だ。新刊の重版をPODで製作する場合、品質面、特に紙の違いが課題になる。書籍ごとに近い品質の紙を選択できれば理想的だが、コスト面で難しい。また、ロール式インクジェット機を使ったJOBギャンギングでは、複数の書籍を同じ紙で印刷する必要もある。
 そこで、昨年PDFの入稿ガイドラインを作成した電子出版制作・流通協議会(北島元治会長)では、新たにPODで使用する紙の標準化に向けた議論も検討している。実現すればJOBギャンギングによる印刷が今まで以上にしやすくなる。また、出版社も初版時に重版を見越して紙の選定,もしやすくなる。品質の差が少なくなればPODの普及を後押しすることは間違いない。
 趣味が多様化する中で、今までのように出版社が売りたい本を風上から風下に流すだけのマスセールスでは読書離れを加速させるだけ。読者のニーズを引っ張るパーソナルセールスへ移行しなければ状況は厳しさを増す一方だろう。そのためには必要な書籍を必要なだけ制作するという当たり前を実現する必要がある。そこにPODの可能性がある。
 浴野氏は「PODがもっと認知されて出版業界が盛り上がってほしい。そのために私たちは要望に応えられるように技術開発を進めていく」と意気込む。同センターのPODソリューションが、停滞する出版業界を活性化することに期待したい。

ページトップへ